ビザーマジックの手順研究

現代的アプローチによるビザーマジックの考察

テレビに出てるマジシャンへの嫉妬心

「手品師って夢のある職業だよね」

と、毎週出演しているお店でマジックを見せているときにお客さんに言われたことがある。ふとそのときに思ったのだが、夢のある職業ってのは、一体なんなの? お金がしこたま稼げる職業のこと? それとも世間様からチヤホヤされる職業のこと?
どちらにしても、わたしは夢のある職業なんてものを営んでいる奴らをぶち殺したくなる。とりわけ、そんな職業になりたいと思ってる奴に唾を吐きかけたいのだ。

「は? 夢! アホなこと言ってんじゃねーぞ! 何が夢だ! 夢で飯が食えると思ってんのか!」

と、言ってどつき回したくなる。
ちなみに、わたしの両親は、手品師を夢見るわたしに対して、そのような酷いことを言ったことが、ない。
ただの一度も。
なぜ、言ってくれなかったのだろう。一度でも言ってくれれば、マジシャンをやめる理由を、両親のせいにできたのに。両親が「夢なんかじゃ飯は食えない」と言ってくれれば、「ちくしょう。おまえらは何も分かっていない」とありきたりな恨みつらみをぶつけて、その夢を諦めることができたのに。

プロマジシャンとしてテーブルホッピングをやり始めたのは、二十五歳の時だった。初めて入ったテーブルで緊張しながらマジックをしました。酔客が財布を取り出して、「やるよ」とチップをくれた。わたしは興奮した。何と言っても万札。おれって才能あるかも。天才かも。チョロっと手品やってこんなにウケて一万円もチップもらった。千円じゃない。一万円だ。おれの四分間の手品に一万円の価値がある。おれは天才だ。これなら、一生、マジックで食っていける。

しかしながら、それは勘違いというものだ。

仕事が終わって終電を逃して、タクシーに乗りながら、どうしてあのおっさんは一万円もチップをくれたのか考えた。千円だったらまだ分かるのだが、チップで一万円? 芸が面白かったからあげるという金額ではないような気がする。確かにあのおっさんはわたしのマジックに驚いてくれた。社交辞令ではなかったように見えた。しかし、たぶんあのおっさんはわたしの才能に対して、一万を払ってくれたわけじゃない。あの酔っ払ったおっさんは、駅前で募金活動している滑舌の悪い小学生の少年少女が一生懸命に「せーの、募金よろしくおねがいしまーす!」などと言っているのを見て、なんとなくここで見て見ぬふりをしてお金を入れないのは自分が冷たい人間になったようで嫌だからお金を恵んであげよう。千円くらいでいいかなあ。いやあ、千円じゃ大企業の役員であるおれという人間が安く見られるかもしれない。くそっ。一万円。本当は風俗に使おうと思ってたのに。ええい、酔った勢いだ、ほれ一万恵んでやるよ。ありがたく思え! という感じでチップをくれたのだと思うのだ。
そう考えるとわたしはゾッとする。ちくしょう。こんなもんで手なづけられてたまるか。しかし、わたしはチップをもらったとき、反射的に「うわあ! こんなに! ありがとうございます。超うれしいです」と、あどけない笑顔をつくってヘコヘコしてしまったのである。胸糞が悪い。疲れた。本当に。

 

また、テーブルホッピングをしていると、
「どうしてこんなところでやってるの?」
「どうしてテレビに出ないの?」
と、言われることが、ままある。おそらく、テーブルホップの仕事をしている人のほとんどが言われたことのあるセリフだろう。そして、そのセリフには、次の言葉がセットになっている場合がある。

「将来、テレビに出て活躍してね!」

うぜえんだよ。テレビ、テレビって、なんなんだよ? わたしはテレビが嫌いだ。あんな画面のなかでマジックをやることが、どうして活躍するということになるのだ。世間のみなさんに自分のことを認知されることが活躍するということなのか? ふざけんなバーカ。ああ、でも、わたしはテレビに出たい。テレビに出て、みんなにチヤホヤされたい。テレビに出ててすごいね。って言われたい。握手してください。サインくださいって言われたい!

なんてね。なんちゃってね。アハハ。あほらし。

そして、いつの間にか三十三歳になっている。はははは!