ビザーマジックの手順研究

現代的アプローチによるビザーマジックの考察

マジックにおける種明かしについて

このわたしが手品界(パライソ)を見限った以前の話をしよう。

その頃のわたしは、ただのテーブルホッパーであった。マジシャンらしい衣装を身に纏い、「こんばんわあ、手品師のアリスでーす」なんつってヘコヘコしながら居酒屋やキャバクラのテーブル卓を回っていた。

なんどもテーブルを回っている内に、「テレビで手品のタネ明かしを見たよ。それはいくらなのか?」と訊かれたことがある。ちなみに、訊かれたのはアンビシャスカードをしたときのことである。正直、「おほほ、嬉し」とわたしは思った。というのも、この手練のみのマジックが、売ってる手品と勘違いされたからである。わたくしのテクニックに値段がつけられた。そんなふうに錯覚したのである。

まあしかし、実際にサイキックボルトかなんかの売りネタについて、それどこで売ってるの? と、訊かれたこともある。テーブルホッパーの手品師ならこの問いに対して「東急ハンズで3860円」などとデタラメをスラスラと答えるだろう。相手はここで笑う。そして、これで良いのだ。

何を言いたいのかというと、マジックを居酒屋やカラオケ店などでエンターテイメントとして演じる場合は、テレビで種明かしされようが、売りネタだとバレていようが、それ自体はほとんど問題にははならないのだ。

ステージイベントなどで度々演じられるドリームバッグなども、一部のクソガキに「あれは〇〇してるんだよ」などと大声で指摘されたこともあるが、演技の支障になったことは一度もない。こういった場合で支障になるのは、子供たちに特攻されて道具を奪い取られて演技が中断される場合のみである。

営業のプロマジシャンにとってはテレビで手品の種明かしをされるというのは大した問題ではない。そのことは、おそらくプロのみなさんたちが身を持って知っていることだろうと思う(ただし、倫理として良いか悪いかは別である。倫理というのは大多数の利害によって善悪が振り分けられるからである。ちなみにわたし自身は倫理を度々無視する傾向がある)。

とはいうものの、手品師が自らタネを明かすことに関しては、【本人にとって】リスキーな選択ではある。なぜなら、その時の観客の演技の見方が固定されるためである。たとえばカードのテクニックを演技中にあえて明かすとする。その場合、次のマジックを演じた時に観客は「裏ですごいことをやってるのを楽しむ」という視点のみで演者を評価することになる。こうなると、手品としての楽しみ方の幅が少し狭くなる。ただ、これが功を奏する場合もある。というのは、面白さを一点に絞ることで観客自身が、どこを評価すればいいのか明確になるので、見ていて安心して演技を楽しめるというケースもあるからである。また、観客の中には「すごいテクニックを評価したい」という人も結構いたりするので、種明かし後のマジックが極めて有効な場合もある。

しかしながら、わたしの求めるビザーマジックを演じる場合、種明かしは禁忌である。なぜなら、種があると思われた時点で、観客を神秘思想に洗脳できなくなるからである。前に書いた記事にも述べたが、ビザールというのは現実と虚構の境界を破壊するものでなければならない。「この人の手品は仕掛けを使ったり、テクニックを駆使している。超常的な能力ではないんだ」と、思われたらおしまいなのだ。

ビザールは観客にこう思わせなければならない。

【この人が手品と称して演じているものは果たして本当に種があるのだろうか? 実は魔術なのではなかろうか】

これである。ちなみに、こういう演じ方においては、長崎にある四次元パーラーのマスターが実にうまいことやっていやがる。

以上のことから、大多数の人類の視点から言えば手品の種明かしをするというのは倫理的に良いことなのだろう。

なぜなら手品を知らない多くの人々にとっては、その不思議な術の答えを知ると心の安定を保てるからだ。

人間は本能的に理解できないものを恐れる。

だから、得体の知れない術を行う者たちに対して「本当のことを言え!」と攻撃的に迫るのだ。

前にも言ったが、その結果が魔女狩りであり、『妖術の開示』が出版された経緯だ。

つまり、種明しを禁忌とするわたくしのビザールは、大多数の意志に反するもの。つまり、倫理を破壊するものだ。

ビザールは人間を混沌に陥れるのが目的だからである。

そういうわけだから、マジシャンの中でたびたびに行われる種明かしが是か否かという議論については、不毛なことであるかもしれない。そこには、答えはない。

そもそも、すべての善も悪も人間の妄想である。

オスカーワイルドも言っている。

『善人はこの世で多くの害をなす。彼らがなす最大の害は、人びとを善人と悪人に分けてしまうことだ』

すべてのマジシャンたちよ、善悪の彼岸を求めよ!